骸×ツナ: 椋木ナツ

 夢なら醒めずにのサンプルです。
骸×ツナ  遊廓パラレルもの。
『夢から醒めても』の続編。
1冊読みきりで書いてますのでこれだけでも読むことができます。
ボンゴレの後継者候補としての教育と、その身の安全を図るために遊廓に隠されたツナは
骸に恋をしたことにより浅蜊屋の影間見習いを引退する。
だが、ボンゴレのボスになることと、骸と生きていきたい感情の間で揺れはじめ
次第に超直感をうまく使いこなすことができなくなり……
 ※雲雀→ツナ要素がガッツリ入っています(エロ含む)
 ※18歳未満の方はご購入になれません。


夢なら醒めずに:サンプル


 つい、ため息が漏れる。
 窓の桟に腰掛けて沢田綱吉は夜の花街を見下ろした。
 道の両側に立ち並ぶ遊郭から漏れる明かりが石畳を照らし、やわらかくその模様を浮き上がらせている。
風に揺れる提灯が道行く人々の影を柔らかく揺らした。
 ツナがここで暮らし始めてから何年が経つのだろうか。
 はじまりは、ツナの目の前に突然家庭教師として現れたリボーンの存在だった。彼が言うにはツナは遠い国の大きな組織の次期後継者候補で、現在のボスから直々にツナの教育を任されたのがリボーンだということらしい。
 リボーンのいうところの『教育』がはじまってからはめまぐるしく世界は変わっていった。
 それまでは勉学も運動も全然駄目で、女の子どころか同年代の少年達ともロクに喋ったこともなかったツナに、いきなり親友だと言ってくれる友人が二人もできた。そして彼らはそのままツナを守護し助ける存在として、ツナと共に並盛町の外れにある花街の浅蜊屋へと奉公に上がってくれたのだ。
 自分すらも巻き込まれてしまった何かに、彼らを巻き添えにしたようで心が痛んだが、それでも彼らの存在はとても心強いものだったのだ。
 一昨年、並盛山の森の泉で六道骸と出会い、そして彼と恋に落ちるまでは、ここでの生活に小さな不満や不安はあっても、これを受け入れることが自分の分であるように思えたし、それと引き替えに自分の周囲にいる人々を守る力が得られるのなら、それはそれでいいような気がしていた。
 昔、うっすらと思い描いていた『普通で平凡な暮らし』をこの先手に入れることはないのだろうと思うと、やはり少しばかり淋しい。だが、ここでの生活に巻き込まれなければ骸と出会うことも彼に恋をすることもなかった。そう考えればこれも仕方のないことなのかなと思う。
 遠くない未来に自分がここを出て行くのは、イタリアに本部を置く『ボンゴレ』と呼ばれる組織のボスになる時だろう。
 もしもボンゴレのボスとして不適格だと判断されたとしても、もう普通の生活に戻ることは難しい。そうなれば、一生この高い塀の内側で過ごす未来が待っている。
 自分は一度はボンゴレのボスに、と請われた身だ。
 ボンゴレが大きな組織であればあるほどに、その内側にはドロドロとした部分を抱え込んでいる。ツナを傀儡としてもう一人のボスとして祭り上げ、ボンゴレを乗っ取ろうとする輩が出てきてもおかしくはない。
 なにしろツナは、その血とそこに宿る『すべてを見透かす力』と呼ばれる力を持っている。いまのところツナ以上に正当な血統を持つ者はいないのだから、そんな事態になればボンゴレは荒廃し、人々を守る自警団という要素を失うだろう。
 ――ボンゴレは、欲と力と血にまみれたマフィアでしかなくなってしまう。
 自分にはボンゴレのボスになるか、この身体と血を利用されないように身を隠したまま一生を終えるかのどちらかの未来しかない。
 だったら、ボンゴレが人の命を弄ぶような組織にならぬよう、できる限りのことをするほうが、ここで生きながら朽ちてゆくよりよほどいい。そう思って後継者候補として毎日を過ごしてきた。
 だが最近は、ボンゴレのボスになる以外の未来が時折頭をよぎってしまうのだ。
 骸と生きていきたい。
 九代目がツナにつけた家庭教師なら鼻で笑うような話だろう。
 けれども、自分の持つ力で誰かを守りたいと願ってボンゴレの後継者候補となることを了承したツナにとって、一番大事にしたい相手を守れない、いまの状況は納得のいくものではない。
 過去に骸の犯した罪がどれほどのものなのか、わかっているつもりだ。その罪ゆえに骸が復讐者の牢獄に捕らわれていることもわかっている。
「どうしたら……いいのかな」
 骸は彼自身の持つ特殊な能力と、偶然知り合ったのだという娘の能力を借りて、その精神を牢獄の身体から抜き出してツナの元へと飛ばしてくることができる。幻覚で作られたのだというその身体は、そう言われなければ気づくこともできないほど精巧なものだ。
 だが、本物の身体をあの水牢から取り戻さない限り、骸と共に生きているとは到底言えないだろう。
「犯した罪の重さは消えない……けどさ」
 骸の身体を取り戻すには強大な力が必要だということは知っている。ボンゴレのボスになったとしても、果たして彼を解放できるのかはわからなかった。
 それでも、それ以外に方法がないのならば――。
 ふうっとまたひとつため息がこぼれた。
「――ボス」
 控えめに響いた声に、ゆったりと首を巡らせ、優しく微笑んだ。
「クローム、どうかした?」
 骸から預けられた少女は、ツナに見つめられてほんのりと頬を染めた。右の瞳は眼帯に隠されているが、事故で失ってしまったのだという。左側にしかないスミレ色の瞳はいつも綺麗に澄んでいた。
 骸がツナの懇願に折れる形で霧の守護者に収まってしばらくした頃、骸からの手紙を携え、この少女が浅蜊屋へと訪れたのだ。少しばかりの幻術が使えることと、骸と意識や身体の共有ができることが手紙にはしたためられており、最後に彼女をよろしく頼むと記されていた。
 彼女を預かることで、必要があれば骸を呼び出すことができる。言外にそう書いてあるも同然で、別の見方をすれば、クロームを預かることで、骸はいつでも浅蜊屋に出入りできるようになるという意味合いもあるようだった。
 骸の身内を浅蜊屋の中に引き入れることに強く反対する者もいたが、いまでは彼女はすっかりここに馴染んでいる。
 ボンゴレに忠誠を誓っていないとはいえ、クロームはツナを信頼しているらしい。骸によく言い含められているからなのかもしれないが、人見知りが激しいながらもツナに対してだけは最初から言葉少なではあったが普通に接していた。
最近はボンゴレの仕事を少しばかり手伝ったりもしているようだ。
 裏を返せば、遊郭を隠れ蓑にしたマフィアの仕事に関わらせても大丈夫だと判断されるくらいには、ボンゴレに信頼されているということなのだろう。
 昔、ボンゴレを裏切った霧の守護者がいたらしいが、クロームは彼とは違うのだとリボーンも言っていたことがある。
 ツナが自分の周りの人々を守りたいと願うのと同じように、クロームもまた骸を助けたいという強い意志を持っている。いつか、骸を助けることがボンゴレへの裏切りに繋がるその時までは、彼女は請われるままにボンゴレに尽くすのだろう。
「雲の……人が……」
「雲雀さんが?」
 ツナがこの街に連れて来られてすぐに、雲雀恭弥が一切の閨の権利を買い取ってくれたおかげでツナは不特定多数の男にその身を任せることなく今までを過ごすことができていた。ボンゴレとの間で何か取引があったのも確からしいのだが、そのことをいくら尋ねても雲雀は教えてはくれない。
 この花街は雲雀の率いる並盛風紀財団が仕切っている。その彼が正規の手順を踏み、金と時間をかけてまでツナをその庇護下に入れてくれた理由ははっきりとはわからない。
 以前、ツナが恋を知らないままに年を重ねるのであれば、雲雀がもらう約束になっていた、と口を滑らせたことから、少なからず好意を抱いてくれていたのではないだろうかとは思う。
 けれどもこの胸の中に骸が棲んでしまったいまでは、それをはっきりと聞いたところでどうしようもないのも事実だった。
「今日は予定になかったよね?」
 コクンと頷くクロームと首を傾げあって「どうしたんだろう?」と呟いた。
「とりあえずお通しして。それから、お酒と何か肴を準備して――」
「邪魔するよ」
 ツナの言葉にクロームが頷くかどうかのタイミングで、雲雀がタン、と軽い音を立てて襖を開けた。
 この人も、何年経っても変わらないのだなと思うと、知らず知らずのうちに笑みがこぼれる。自分のしたいようにしているだけだと公言してはばからないし、実際その行動は奔放だ。
 ツナの呼びかけに応じて姿を見せることもあれば、こんなふうに予告もなくこの部屋へやってくることもあった。
「雲雀さん……。どうしたんですか? 急に」
「ちょっとキミに話があってね。寄らせてもらったよ」



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